カリーパンの趣味備忘録

視覚から得る情報の雄弁さは計り知れない。

「彼女、お借りします」の憎めない美点

こんにちは。
今期放送が終了した「彼女、お借りします」。皆さんの感想を読んでいると、かなり綺麗に(?)賛否両論な印象。というのもこの作品、大まかな不満点はおそらくみんな一致してると思うんですよ。実際自分も、不満点、もしくは感情が入りきらなかった点は、感想を読んでてとても納得しました。
しかし、自分は最後まで割と楽しく見れていました。それは声優さんの名演だったり、キャラクターデザインの魅力だったりが第一としてあるわけですが、もっと部分的に「おっ」と感じるシーンもあったり。
作品への不満点を挙げた感想をよく見かけるからこそ、本稿では良かった点、好きな点をまとめてみました。一応前提として、原作未読です。拙い文章ですが、よろしゅう頼んます。

 

1話と12話(最終回)の演出について

 1話・12話・OP・EDの絵コンテを担当されている、本作の監督でもある古賀一臣氏。彼が絵コンテを担当された部分は突出して好きで、OPについてはTwitterの方で触れたので参考までに。

 閑話休題。一話アバン、「俺は木ノ下和也、」というこの作品における第一声と同時に始まる歩く描写、どこか大らかさを感じられる足元の芝居。そして直後、和也のモノローグと同時に映し出される口元の歪みのアップ、この10秒弱で、仕草も合わせたかなり濃密な「自己紹介」をしたと言える。

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今作を「キャラ紹介アニメ」と評している方が数名いてかなり納得していたんですが、思えば上で挙げたようなカットも、そんなかのかり一期のストーリーテリングを象徴するかのようで。尺の都合上、二期以上の構成にすることは、早期の段階で決まっていたのかもしれませんね。プロット構成の巧さが、絵による演出として表れていたように感じるシーンでした。そういえば11話アバンも、先に挙げたシーンに似たような構成でしたね。墨ちゃんえっt…可愛いですね。

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2期での活躍を期待しております。

そして12話。やはり注目したいのが、歩道橋の上でのワンシーン。歩道橋は人生の交差点の隠喩とも言えますが、少なくとも今後の彼ら・彼女らを左右する場面であったことは間違いない。基本的に表情芝居の読み取りやすい寄り気味のカメラワークで会話が進みますが、和也に対しての気持ちを問いかけるシーンでは、キャラの心情に呼応するように、カメラが一気に引く。麻美からの問いかけの際、攻守逆転するかのように、イマジナリーラインを跨いで上座・下座(左右)が反転するシーンも印象的でした。

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千鶴の「あなたはどう思ってるんですか、和也さんのこと」と、麻美の「あなたは?」の計二回、カメラの引き


また、会話の終わりに挿入された、和也の号泣を収めたハーモニー処理(止め絵演出)。差し込まれた段階では演出意図が謎で混乱しましたが、終盤パートを見るに、和也の千鶴に対する気持ちに改めてスイッチが入ったことを印象付けるカットだったのかなと思います。

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伝統ある出崎演出。


そして一番印象的で思わず「カッコいい!」と感じてしまったカットが、1話と12話で対比的に描かれる、タイトルバコーン!!のシーン(語彙力)。特に注目したいのが1話の方、ダッチアングル(斜めに撮られた構図)が関係性を象徴するようで。目線は合ってるんだけど、千鶴が上側に来ている斜めの構図から、関係の不安定感が否応なしに表れている。自分は特別ラブコメが好きなジャンルというわけではなく切るときは切るのですが、まずここのカットで惹きつけられ視聴確定。で、12話。和也が上座(右側)、千鶴が下座(左側)と、1話と逆転の構図となっている。

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このカットで決まって挿入されるthe peggiesさんの楽曲の素晴らしさもさることながら、引き締まった構図・対照性の美しさは、思わず感情が揺さぶられました。1話で魅せてきただけに、2~11話はどこか緩慢な心持ちで見ていましたが、ラストでまた引き締めなおしに来た構成は見事。

 

人間味の強い表情芝居について

キャラクターの表情芝居にも感心する点があって。例えば和也、まぁ基本的には欲丸出しのゲスい表情が一番多いんだけど(笑)。その次に多いのが、全話を通して見られる、喜怒哀楽のどれにも該当しないような、こんな表情。

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それぞれ3話、11話より


例えば自分なんかは、考え事に頭を巡らせ意識が飛んでるときとか、大体こんな感じの表情になってると思うんですよ(笑)。本作を見てるときも、考え事に頭が巡って内容が右の耳から左の耳に流れかけることなんかもありましたが、こういう表情が挟まる度に、自分の気が抜けていたのを自覚して、自然と緊張したものです。かなりリアルで、人間味のある表情なんですよね、とにかく。欲に忠実かつ後から後悔・反省する和也。彼が作劇を不評たらしめる最も大きなファクターであり不誠実極まりない態度だが、同時に正直な証拠でもあり。こういった「エゴと自己嫌悪のサイクル」も表れている気がして、とても雄弁な表情芝居だなと。

そんな彼の表情の中でも特に好きだったのが、4話のラスト、海に飛び込み千鶴を助けるシーン。トラックアップ(カメラのじわ寄り)で和也の表情に寄るカットから飛び込むまでの一連の流れが描写されていますが、バックに流れる焦燥的な劇伴と対照的に、「考えるより先に体が動いた」ことが分かる自然な芝居が至高。彼の手から自然とスマホが滑り落ちる描写も、反射的に体が動いたことに関して付随する描き方をすることで、より説得力を持たせるようで良い。

 

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好きの反対は無関心。正直言って好きにはなれないキャラでしたが、この表情が挟まる度に、「どんなことに考えを巡らせ、どう立ち回るのか」に興味・関心がわいてしまう自分がいて。彼は嫌いなキャラではありましたが、それは少なからず我々俯瞰者の自己投影が介在しているわけで、こういった人間性に憎めない点はありました。



まぁ、あと強いて言えば、「俺ガイル」と同時期放映だったのもでかかったような。個人的には俺ガイルの方が作品満足度は上でしたが、作風が合わない人は通夜状態にしか見えないだろうし。「半沢直樹」が売れた要因でもあると思うんだけど、ラブコメを描きつつもエンタメ性を頑張って取り入れようとしていたように思う。功を奏していたかは別として。
個人的には、かのかりで苦笑しつつ俺ガイルで疲れてと、いい感じにマッチポンプな感情運びになってたと感じます。ということで本記事はここまでです。二期では墨ちゃんが活躍するそうです(圧)

 下にTwitterのほうで呟いていた感想まとめのリンクも貼っておきます。

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©宮島礼吏講談社/「彼女、お借りします」製作委員会