カリーパンの趣味備忘録

視覚から得る情報の雄弁さは計り知れない。

話数単位で選ぶ、2020年TVアニメ10選

新米小僧さんが企画されている伝統ある企画、恐縮ですが初参加させて頂こうと思います。今年から集計がaninadoさんに委託されるそうです。改めてよろしくお願いします。

aninado.com

■「話数単位で選ぶ、2020年TVアニメ10選」ルール
 ・2020年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
 ・1作品につき上限1話。
 ・順位は付けない。 

 選出基準にこれといった偏りはありません。単純に好きな回の選出・感想となってます。

 

 目次

 

ID:INVADED  FILE:06「CIRCLED」

脚本:舞城王太郎 絵コンテ:久保田雄大 演出:久保田雄大 栗山貴行 作画監督:浅利歩惟 豆塚あす香

f:id:karipan:20201221210330j:plain
f:id:karipan:20201231011240j:plain

電車窓やガラスを介して視線を交わす井波と数田、意識的な想定線の逸脱、そして何より俯瞰ショットで映される、「目的地」を持たない円環線路を走る列車というモチーフ性。
殺人心理の視覚化という挑戦に真っ向から挑んだ今作でしたが、特に今挿話は、サスペンスとしての緊張、そしてその渦中で紡がれる歪なヒューマンドラマとして描かれる叙情の波が、作劇のスパイスとして極上でした。世界観を引き立ててくださった水曜日のカンパネラさんの挿入歌には感謝の言葉もない。本堂町の転換点としても印象的な回であり、プロットの中間点としての役割付けも◎。

 

 

彼女、お借りします 満足度12「告白と彼女 -コクカノ-」

脚本:広田光毅 絵コンテ:古賀一臣 演出:古賀一臣 作画監督:野本正幸、飯田清貴、加藤 壮、時矢義則、ウクレレ善似郎、高橋敦子、平山寛菜

f:id:karipan:20200929092218j:plain
f:id:karipan:20200929100518j:plain

1話のダッチアングルとの対照性を意識したキメのタイトルロゴが印象的なカット、そしてダイアローグのシークエンスが歩道橋や踊り場の上で繰り広げられるのも、「関係性の転換点」として意識しやすい良い場面設定。
マッチポンプな恋愛劇の中、確実に初期より進展していた関係性を、徹底的な対照性で描くコンテの切り方にひたすら感心させられた最終回でした。2期も是非同スタッフで制作していただきたい。

 関連記事

karipan.hatenablog.com

 

 

僕のヒーローアカデミア(第四期) 第86話「垂れ流せ!文化祭!」

脚本:黒田洋介 絵コンテ:サトウシンジ 演出:池野昭二 作画監督大塚明子、佐倉みなみ、橋本治奈 総作画監督:小田嶋瞳

f:id:karipan:20201222215002j:plain
f:id:karipan:20201231011745j:plain

今作でよく用いられる「オリジン」という言葉に込められた、ヒーローになる上での目的意識。そういったキャラクター毎の向上心を熱量と理屈で描きとる今作において、耳郎が被っていた逡巡の殻を突き破る描写、またそれに劣らない歌唱曲や、可愛らしい・カッコイイ芝居がふんだんに詰め込まれたクラスメイトのダンス描写は、とてもエモーショナルでした。ヒーローを志す際のイニシエーションとして「人からの後押し」の描写を最も大事にする今作、耳郎の両親→耳郎→エリという伝播するかのような描き方も◎。

 

 

イエスタデイをうたって 第3話「愛とはなんぞや」

脚本:田中仁 絵コンテ・演出 伊藤良太 作画監督:藤原奈津子 渥美智也 松浦麻衣 山野雅明 菊永千里 菊池政芳 海保仁美 菅原美智代 上野沙弥佳 高山洋輔 総作画監督谷口淳一郎

f:id:karipan:20201231001926j:plain
f:id:karipan:20201231001911j:plain

信号機や標識に仮託された停滞のモチーフ性、晴と陸生の交差する感情を如実に表したかのような、道路に引かれた白線の数々。そういったレイアウト構成にも感心してしまうのですが、そういった記号的な演出はあくまで「演出」にしか過ぎなくて、停滞と前進を何度も繰り返す今作において、この回が紛れもない晴にとっての転換点として描かれていたことが何よりよかった。
想いの強さ故の反発、どこか保身のために逃げ場を作ってしまう。そんな彼女が自ら逃げ場を潰すかのような自己紹介シーンは、まさしく本作のラストと直結する大切な場面として描かれているように感じました。

 

 

乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった… 第11話「破滅の時が訪れてしまった・・・後編」

脚本:清水恵 絵コンテ・演出 井上圭介 総作画監督大島美和 総作画監督補:井本由紀 佐藤香

f:id:karipan:20201231003130j:plain
f:id:karipan:20201231003144j:plain

この回までカタリナは、どこか身の回りのキャラクターを「破滅を回避する」ためのピースと捉えていたわけですが、前世の疑似体験を経て、周りのキャラクターたちがかけがえのない存在であること≒今の世界(FORTUNE LOVER)が現実であることに気づく描写が良い。
メタ的な話にはなりますが、今まで愛情をフラグと称したりとゲーム的観念に囚われていたカタリナですが、主体的な選択で帰還することによって「第二の人生」感が強まる。
「ずっと見守ってる」。あっちゃんとは今生の別れではない、だから手が虚空をつかむわけじゃなく、指先が触れ合う芝居がとても良い。

 

 

デカダンス 第2話「sprocket」

脚本:瀬古浩司 絵コンテ:立川譲 演出:三浦慧 総作画監督:栗田新一 作画監督:三島詠子

f:id:karipan:20201231003732j:plain
f:id:karipan:20201231003714j:plain

2020アニメ、リアルタイムで鑑賞していて一番衝撃を受けた回はと聞かれたら、間違いなく今回。
初回の生気溢れる世界観から一転、叙述トリックで描かれるマッチポンプな世界観に度肝を抜かれました。ソリットクエイク社内のサイボーグはカートゥーン調でポップに描かれており、外で必死に生きるタンカーとの皮肉的な対比も痛烈だった。しかしそういったマイナスな対比だけではなく、サイボーグたちの生の活力といえるオキソンを注入しながら、人間に生を実感した「サイボーグ体の」カブラギに「俺は確かに、救われたんだ。」という台詞を委託する脚本がなかなかに憎い。今作が放送されていたクールの中で一番好きな台詞。

 

 

アクダマドライブ 12「アクダマドライブ」

脚本・絵コンテ・演出:田口智久 作画監督:Cindy H. Yamauchi 立川聖治 稲留和美

f:id:karipan:20201231004533j:plain
f:id:karipan:20201231004518j:plain

ダンガンロンパ」の小高氏らしいケレン味に仕込ませた真っ直ぐな芯、そしてそれをリッチに脚色してくださった田口監督の手腕が一番表れた回。最後まで仕事をこなさんとする運び屋、外を見たいとあがく兄妹、両者の目的のベクトルの方向性の違い、しかし確固たる意志の強靭さが伺える「真逆に走り出す」レイアウトなどに凄く胸を打たれたのですが、かくして固有名詞による役割付けが決められた世界で、「一般人」という、無色故に「何者にもなれる」アクダマが変えた世界。そういえばダンガンロンパも、冴えない少年が強靭な意志で世界を覆す物語だった。
思えばアクダマも、ダンガンロンパにおいて「真っ直ぐな意志」の意である「コトダマ」のもじりだったのだろう。グローアウト演出*1で先の景色を見せない兄妹の背中は、メタ的ではあるが「最後まで意志を曲げなかったものだけが見れる景色」を示唆していたように思う。
Blu-ray最終巻にはディレクターズカット版が収録されるそうだが、上で挙げた理由から、兄妹のその後は描かないでほしい、というのが本音。

 

 

体操ザムライ #11「体操ザムライ」

脚本:村越繁 絵コンテ:宇田鋼之介 演出:清水久敏 宇田鋼之介 大槻一恵 久保田雄大 下司泰弘 吉村愛 作画監督吉田正幸 浅尾宏成 本多みゆき 藤田亜耶乃 斎藤美香 濱田悠示 青木里枝 戸沢東 柴田志朗 松岡秀明 山門郁夫 桑原幹根 村長由紀 崔ふみひで 岡崎洋美 本田敬一 冨永拓生 野崎真一 大津直 Studio Bus

 

f:id:karipan:20201231005304j:plain
f:id:karipan:20201231005246j:plain

引き際のサムライの勇姿を描きつつ、今まで丁寧に掘り下げられてきたキャラクターたちが、サムライの姿を見てどこを目指すのか、という「個々の到達目標」を30分尺で描き切ったバケモノ脚本回。
スポーツアニメでおっさんに主人公を委託した意図、典型的なスポ根的熱量ではなく、避けては通れない「バトンタッチ」の過程を描きたかったんだよなっていう。だからこそレオや南野の表情芝居、玲ちゃんの大女優への第一歩、若手選手たちが城太郎から何を取り入れることができるかを考える姿が刺さる。計算された脚本、されど全く不快感を感じない清々しさ。

 

 

オオカミさんは食べられたい 第3話「先生の特別なひとりになりたい」

作画監督:山根あおい 平山友理 眠太 辻司

f:id:karipan:20201231005742j:plain

やはりお世話になった以上、この作品からは逃げられないよな、という理由から漢のチョイス。もちろんプレミアム版も有料視聴。
僧侶枠とかいう僻地で腐らすには勿体ないキャラクターデザインのよさ、謎に気合の入ったHシーン。これだから僧侶枠ガチャはやめられない、今一度この枠の需要を噛み締め痛感させられた神回。

 

 

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完 第10話「颯爽と、平塚静は前を歩く。」

脚本:大和慶一郎 絵コンテ:大原実 演出:佐々木達也 作画監督:北村友幸 清水直樹 谷川亮介 林信秀 劉云留

f:id:karipan:20201231010343j:plain
f:id:karipan:20201231010402j:plain

f:id:karipan:20201231010953j:plain


思春期の青春、拗らせまくった関係性。そういったもどかしさや気恥ずかしさが、叙情的な撮影処理や丁寧な手・足先の芝居付けなどへ如実に反映されたフィルム作りがなんとも好きだった今作ですが、中でもこの回は、そういった画作りに対して強い意図を感じた回でした。
心の充足を求めるかのように、廊下に差す儚げな月光の撮影処理。肩越しショットで映される雪ノ下に対して、ガラス越しで映される虚像の八幡、この距離感の演出がたまらんのですわ。どうでもいい言葉で埋め尽くされた距離感、その隙間の正体を教えてくれる平塚先生の描写もほんとにいい。思春期の葛藤を乗り越えてきた人生の先輩だからこそ明示できた「好き」へのロジック、そういった意味合いも込めてであろうサブタイトルの「颯爽と前を歩く」という表現も凄く好きな回。

 

 

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
選出候補として、映像研には手を出すな!、かくしごと、魔女の旅々辺りは泣く泣く外しましたが、コロナ禍とはいえ今年も素晴らしい作品に溢れていました。製作スタッフの皆様には感謝しかない。
今投稿で今年は投稿納めとする予定です。2020秋アニメ総括はまた年明けに別記事にて行う予定です。今後とも「カリーパンの趣味備忘録」をよろしくお願いします。

*1:光を浴びつつ、白飛びしたように消えていく演出