カリーパンの趣味備忘録

視覚から得る情報の雄弁さは計り知れない。

イナズマイレブン 第10話「帝国のスパイ!」感想 ― 個の確立を描くジュナイブル

こんにちは。
さて期末レポートも一段落、バイトも終わって土日に溜まったアニメでも見るか!と意気込んでいたのに、イナズマイレブンをぶっ通しで見返してしまうという体たらく。なんなんだコイツは(俺)。

というのも最近、有名配信者・加藤純一さんにハマっておりまして、そんな彼が熱狂的なファンからのプッシュで手を出した「イナズマイレブン」のゲーム配信。思い出補正でとても懐かしく感じたと同時に、「そういえば無印は当時途中からの視聴だったな」と思い出して急遽見返しているわけであります。率直な感想として、「めちゃくちゃ面白い」。夏美ちゃんってこんなに可愛かったっけ?とか、必殺技バンクのT.B演出等による迫力感の良さだとか、やっぱり当時と違う視点・発見もあるわけで。てか前置き長いな、とっとと本題。

例えば第8話「恐怖のサッカーサイボーグ!」では、雷門との試合を通して、狭量の狭い大人の抑圧を振り切ってサッカーの楽しさを知る御影専農という展開に痺れたし、第9話「目金、立つ!」では、自分と同じく「何か(マグカフィン)」に没頭できる友人を絶対に否定しない円堂の在り方、個々の持つアイデンティティの尊重という観点において非常に胸を打たれる描写でした。

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第8話より。美女マネージャーは幻想です


寧ろそういった個の尊重・確立を描いた挿話が前座だったのではないかと思うほど印象的だったのが、第10話「帝国のスパイ!」。練習シーンのさなか、逆三角形の形状をしたナイター設備と重なる土門のカット、後に挿入されるサブタイトル画面までの間の取り方といい、異彩を放っていたように感じました。

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逆三角形というモチーフ性は「フラッグ」とも呼ばれますが、自己主張・自己探求といった意味合いも込められており、まさしく土門が自分を見つめ直す今回の挿話において、非常に雄弁な演出だったといえます。帝国側の人間として雷門のスパイを遂行しつつも、円堂のパーソナリティに惹かれつつある土門。そういった罪悪感から生じる逡巡が、ガラス越しに映されるショットや赤信号に気づかない描写などによって構成された一連のシークエンスによって表されていく。

 

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そして次の日、正の方向(校舎)へ歩く生徒たちに交わるように裏方向へ歩いていく土門。スパイとしての目的を遂行するための必然の行動とも言えますが、わざわざカメラ前を通る一般通過生徒を描写する意味合いを強く感じました。そしてここで、帝国学園・鬼道への密告。

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しかしそれは以前までとは違い帝国への異議を申し立てるものであり、そういった鬼道と土門を光影で分け隔てるシークエンス構図。しかしここでイナズマイレブンの一筋縄ではいかないところは、鬼道でさえもまた、自己を模索する人物として描かれている点にある。雷門のマネージャーと兄妹関係であることを開示してから、勝利に固執するあまり内面を捉えようとしない親との食事シーン。これは個人的な印象なんですが、少年ジャンプでいうところの努力:勝利の比率が9:1くらいなんですよね。勝利に固執し社会の規範を逸脱する影山総帥、あくまで努力の過程を重視する雷門イレブンが徹底的に対比で描かれてる。

閑話休題、元々は身内だったもう一人のスパイを切ることで雷門に貢献することを代償に、自身もスパイであるという正体(自己)が開示されてしまう土門。本心と欺瞞による葛藤や罪悪感、何より「周りからの非難」を恐れて逃げ出してしまう描写は、等身大の子供として描写される。そしてここで挿入される回想シーン。故人・一之瀬*1は卓越したサッカーセンスの持ち主であって、寧ろ土門にとって追いつけない選手として描写される。だからこそ感じていた疎外感、近くで埋めてくれる存在がいなかった。ここで第9話で描写された円堂のパーソナリティが活きてくる、即ち彼こそ「自身のアイデンティティ」を承認してくれる存在。

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だからこそ、回想とオーバーラップで重なる過去(一之瀬の背中)と現在(隣の円堂)の土門の描写に、どうしようもなく心を打たれてしまいました。

見てるしかなかった、一之瀬の背中を、追いかけても追いかけても追いつけない。
 でも、円堂は違うんだよ、隣を走ってるんだ。あいつとなら、いつまでも走ってられそうな気がする…

脚本・演出に仮託された熱量。余韻として、対等に描かれる円堂・土門のサッカー描写の良さ。一之瀬という目標から得る「自己承認」と、円堂という「他己承認」を得た土門。紛れもなく、雷門イレブンの一角である。

 

というわけでイナイレの挿話単体に焦点を当てた感想でした。今18話くらいまで見た。
今思えば主人公がキーパーとか渋すぎだろって感じなんですが、常にフィールドの後ろから背中を見ているからこそわかる他者の内面への寄り添い方なのかなとも。とにかくフットボールフロンティア編は、大人と子供の領分のスイッチングが激しく、渋くも熱い非常に好みな本なんですが、調べてみたら2期に入る直前まではゴールデンタイム放送ではなかったらしい、どおりで。
今期の装甲娘戦機もそうだけど、ダンボール戦機といい、レベルファイブ黄金期が懐かしすぎてお涙止まんねーわ。
再びレベルファイブが日の目を見る世界戦はどこですか?

 

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*1:今挿話時点。