カリーパンの趣味備忘録

視覚から得る情報の雄弁さは計り知れない。

社会的地位という固定観念からの脱獄―『Dr.STONE 第2期』第6話「PRISON BREAK」感想

石神村の科学王国という小さい国家的な社会のなかで、「科学使い」という肩書を与えられているクロム。即ちそれは千空と同じものであるが、寧ろこれまでの物語を見るに、クロムが同じ科学使いの千空より優れている点は、他者から得た経験値を積極的に自身のイマジネーションに取り入れようとする、柔軟な思考プロセスにあると言える。今挿話はクロムという、いち科学使いの矜持に焦点を当てつつ、囚われの身となることで失いつつあった柔軟な思考を取り戻す、即ち科学使いという「固定観念」からの脱却に重きを置いた回だったように思いました。

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今挿話はまず、「上井陽」という人物にフォーカスする描きから始まります。彼の立ち振る舞いはとても本能的、元警官時代の回想からも、寧ろ理性ではなく感情的に人を裁くような人間性だったことが伺えます。そんな本能的に生きる彼ですが、身近な異性に振り向いてもらいたいという「性」が絡む欲求の裏で、「そのためには司の側近という社会的地位を得なければならない」という理性が本能の裏側に備わっていたと言えます。即ち彼もクロムと同じで、社会的地位の大切さは知っていても、そういった肩書きとしての固定観念に囚われている人間として描かれているのです。

 


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だからこそ、「シンプルでいいわ、新世界」という台詞も、格差社会の明快さに慢心する彼の主体性の欠如を浮き彫りにした秀逸なものと言えるし、格子越しに視線を交わす二人の構図も、クロムが状況的に囚われていると同時に、陽もまた固定観念に囚われていることを表しているように思えました。

 

かくして外部から投げ入れられた電池(羽京?)で発火を試みるも失敗、陽率いる監視軍団に見つかってしまうわけですが、ここでクロムは気づいたはず。感情を忠実に発露するだけの陽の幼さに。科学は自己顕示という感情の発露のために用いるのではなく、直感とイマジネーションの連鎖が生む理性的な事柄であるからこそ、優位性を錯覚させるペテンの演技に痺れる。

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そして遂に脱獄決行シークエンスへ。千空から得た現代化学、ゲンから得たペテンの使い方と、現代人から受けたインスパイアを自身のインスピレーションへと昇華しきったクロムの脱獄劇は痛快なものでしたが、寧ろそれより心を打たれたのは、ルリを救いたい気持ち・未知を既知に変容させていく楽しさ(採集)が、そのまま彼の経験値として活かされていた点にあります。

 

「科学使い」、千空と同じ肩書ながら、寧ろ理詰めな固定観念から脱却することで改めて獲得できた「クロム」唯一無二のアイデンティティ
序列が生じている司帝国と、個々の技能・アイデンティティを何より重んじることで対等性が生じる科学王国。クロムは立派な、かけがえのない科学王国の一員である。

 

©米スタジオ・Boichi集英社Dr.STONE製作委員会