カリーパンの趣味備忘録

視覚から得る情報の雄弁さは計り知れない。

「クリエイターの創造から生まれるアジテーション」―Newtype 12月号 感想

Twitterで軽く所感を呟く程度にとどめようど考えていたのですが、雑誌を読んでいるうちに思うところがとめどなく膨らんでいって、こうしてブログを執筆している次第です。アニメを含め創作と向き合うにあたって、「面白ければいい」から「制作者さんの工夫を知りたい」へと転換しているんですよね。日に日に。勿論「楽しければいいじゃない!」という感覚は大事だと思うのですが、クリエイターの方々の工夫で見えてくる創作の多彩な側面をしっかり咀嚼していきたいなと。とまあ詭弁はこの辺にして感想を。異様に長くなってしまったので、目次から気になる項だけでも読んでいただければ幸いです。

 

ニュータイプ 2020年12月号

ニュータイプ 2020年12月号

  • 発売日: 2020/11/10
  • メディア: 雑誌
 

 

 目次

 

劇場版「鬼滅の刃」無限列車編 ―劇伴によって引き出される感情の共鳴

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まず初めに率直な感想を述べますと、原作未読で臨んだ身としては感情移入がしやすい本とは言えなかったなと。今作はTVシリーズ時より、原作からの忠実なアダプテーションがファンから評価されておりましたが、弊害として、感情の咀嚼を阻害するレベルのモノローグ解説の多さは映像化されたことにより悪目立ちしてしまったし、なにより週連載によって丁寧に掘り下げられていた「煉獄杏寿郎」の人間性を、映画尺の中で描き切ってしまった(時間は伸縮しない)点も、イマイチ本の情感に入り込みづらい一因でした。
とはいえ、リアルを追求した3DCGによる背景美術の上から、リアリティ溢れる繊密なセル画で描かれた炭次郎をはじめとする鬼殺隊の面々は、奇しくも「人間VS鬼」という今作のテーマ性を象徴するようで素晴らしい画作りだったし、劇伴による感情への相乗効果の圧倒的高さは、評価されるべき要素だと思います。
と、ここまでが映画のみの感想でしたが、Newtype 12月号にて、劇伴を担当された梶浦由記氏・椎名豪氏のインタビューが掲載されていて、また改めて作品に対する印象が変化しました。

TVシリーズからの制作体制の変更点を質問されて) 
椎名「基本的には変わっていません。ufotableさんの作品はTVシリーズでも、劇場版でもフィルムスコアリング(映像に合わせて音楽をつくる手法)が多いんです。

 

 梶浦「ufotableさんは映画のなかで「音楽を聴かせる場所」をつくってくれるんです。音楽の効果を考えて、映像をつくってくださることはとてもありがたいですし、そういうシーンの音楽をつくるのはプレッシャーもあります。でも、音楽のつくりがいも大きいんですよね。」

 フィルムスコアリングという手法は音楽手法に疎い自分は初めて知りましたが、必ずしも音楽→映像の順番じゃないんだなと。ここまで読んでなんとなく思い出したのが「天気の子」公開時インタビューにて新海誠監督の「RADWIMPSさんの音楽が輝く瞬間を、この映画が最も輝く瞬間にしたい」という発言、今作「鬼滅の刃」の制作スタッフの熱量と合致している気がして、自然と感動してしまったんですよね。
ここでもう一つ、最近鑑賞した作品であるため記憶に新しい「劇場版「空の境界」 俯瞰風景」。

 

劇場版「空の境界」 俯瞰風景 【通常版】 [DVD]

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  • 発売日: 2008/05/21
  • メディア: DVD
 

 

同じく梶浦由記さんが音楽を担当されていますが、浮遊する意識と地に足をつける両儀式の戦闘シーン、シークエンスの持ち合わせる熱量に呼応するように盛り上がる劇伴は、まさしくフィルムスコアリングによって制作された劇伴ではないだろうか。動きのある作画や迫力際立つ撮影処理の数々も圧巻でしたが、劇伴に関しても、作品を裏から引き立てるというよりは、むしろ「一番作品で輝いていた」要素ではないだろうか。
鬼滅の刃 無限列車編、鑑賞時は漫画から映画へとアダプテーションする過程においての欠点が露呈した作品のように感じましたが、クリエイタ―の方々の工夫を知った今、むしろ「映像でしかできない表現」の良さを改めて知ることができた作品でした。

 

魔女見習いをさがして ―延長線上ではなく、「リアル」を描いた意味

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自分は所謂「おジャ魔女どれみ」は全くの未鑑賞で、作品におけるキャッチコピーやTwitter・ブログのレビュアーさん方の「おジャ魔女を見てない人でも楽しめる」という後押しのもと今作の鑑賞という決断に踏み切りました。さすがに第一シリーズの1話を見てから鑑賞に臨みましたが。しかし「おジャ魔女」の映画であるということで以前から期待を寄せていたファンの方々からすると、キャストやあらすじが公開されるにつれて「どれみちゃん達のその後を描かない」という制作陣の決断は、少なからずショックを受けたのかなと思います。
とそんな感じの第一印象を受けながら鑑賞した今作「魔女見習いをさがして」、まず最初にフィルムの特色として印象に残ったのが、かなりパッキリとした陰影による画面レイアウトの断面。光影の演出によって付けられた影の境界線がかなりくっきりと引かれてるんですよね。影絵的に表現されるどれみ達、魔法玉に映るハイライトの消失、関係性の亀裂を象徴するような影によって引かれる境界線。シークエンスによって表現の仕方は様々でしたが、徹底して現実と魔法の乖離が描かれているように感じました。Newtype 12月号、監督・佐藤順一氏×プロデューサー・関弘美氏インタビューにて、両名はこう綴ります。

 (どれみを見ていたファンを描くのに、キャラクターデザインを「どれみ」調にした理由を質問されて)

関「確かに実写寄りにすれば、とおっしゃる方もいました。でもそうすると、実写とアニメの世界に優劣ができてしまう気がしたんです。メタに立ちすぎるというか、それはこの企画がめざすものとは違う。」

 

佐藤「子供のころに見た作品からもらったものって、大人になってからも残っていると思うんです。<中略>たとえ番組の内容は忘れてしまっても、ふと思い出すことがある。この映画が、そんなことを意識できる作品になって欲しいですね。」 

 今作は「おジャ魔女どれみ」を創作として享受する人物たちが描かれるわけですが、ここで実写などの決断に踏み切らなかったのは、あくまで「どれみらしさ」を尊重したい制作陣の思い入れの表れでもあるのかなと。ともすればキャラクターデザイン(馬越氏)の頭身が一貫してどれみ調で描かれていたり、あえてアニメーション的な「くずし」をふんだんに詰め込んだコンテ構成も納得のいく判断だなと。それを踏まえて上に挙げた光影の演出にしても、現実と魔法の断絶をメタ的に表したものではなく、自己実現の過程において彼女たちの間にある等身大の悩みをフィルムとして表現したものなんだなと改めて思い直しました。だからこそラスト、それまで影として描かれてきたどれみ達が色彩豊かな姿でMAHO堂に顕現するかのような演出は、「いつでもそばで応援しているよ」というクリエイターからの、ひいては作品そのもののメッセージのように感じられて、筆舌に尽くしがたいほどの叙情に駆られ、どれみ達を知らない自分でも涙腺に来るものがありました。

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今作で描かれていたのは、魔法の否定ではなく、あくまでひとつの「創作への向き合い方」の道を示したものなんだと、クリエイターの方々の工夫に触れることで改めて思い直すことができました。

 

GOTCHA!―リアリティは時にリアルに昇華する

今月号のNewtype購入に踏み切った理由のひとつがこれ。こんな素晴らしいMVを制作してくださった方のインタビュー、これは是非読みたいなと。知らない方のために詳細、YouTubeにて公開されたポケットモンスター×BUMP OF CHICKENによるスペシャルミュージックビデオです。リンクもそっと添えておきます。


【Official】Pokémon Special Music Video 「GOTCHA!」 | BUMP OF CHICKEN - Acacia

感想や考察に関しては以前別記事にてかなり詰めたため、本稿ではインタビューを読んだうえでの補足的感想をチョロっと呟こうかなと。下に別記事のリンク貼っておきます。

 

karipan.hatenablog.com

 個人的に嬉しかったのが、上記記事にて予想していた、中村豊さんの担当カットが的中していたんですよね(笑)。表情から表情への流れるような躍動感あるカット運びは、やはり彼だからこそ描けるかっとだよな、という。
本MVを担当したアニメーター3人のインタビューでは、やはりキャラクターデザイン・作画監督を務められた林祐己氏のお話が印象的でした。

林「基本的に、奥にある「ポケモン」世界と手前の現実世界の2つに分けて、「ポケモン」世界のほうはゲームに準じたデザイン。手前は「ベイビーアイラブユーだぜ」*1とか、これまでの松本作品のテイストに近づけたデザインでいく、という話でした。

 これだけ聞くと、上記の「魔女見習いをさがして」と通ずるものが感じられますが、ここで大事なのは、現実世界の描写はよりリアリティを持たせている点。ポケモン世界と現実世界、この境界がしっかりとキャラクターデザインの頭身に対比的に表れています。こういった世界観にするという決定を下した監督・松本理恵さんのポケモンに対する思いをつづったインタビュー記事も、是非購入して読んでいただきたいものです。

 

©吾峠呼世晴集英社アニプレックスufotable

©東映東映アニメーション

*1:菓子メーカー・ロッテの創業70周年を記念して制作されたショート・フィルム。BUMP OF CHICKENの「新世界」に乗せ、ロッテの商品をモチーフにしたキャラクターたちが次々と登場。今作「GOTCHA!」と同制作スタッフが多い