カリーパンの趣味備忘録

視覚から得る情報の雄弁さは計り知れない。

2021冬アニメ雑感①

今期はフィルム作りの良い作品が多い。Dr.STONEの原作購入我慢してよかった、無限に泣いてる。ゆるキャン△Dr.STONEひぐらし業とかいう感情ジェットコースター、中毒性が高すぎる。色々感情が溜まってきたので、適当に発散していきます。

 

まずは「怪物事変」。PV時点ではあまり気になっていなかったんですけど、いざ見てみたらというパターンでした。主人公の泥田坊→夏羽へのイニシエーションが描かれていた初回、これまで周りの悪意を集中的に受け続けてきた彼にとって、隠神と出会ったことにより初めて得ることができた、他者からの「承認」から込み上げる感情は計り知れないものだったと思います。

f:id:karipan:20210122193227j:plain
f:id:karipan:20210122193335g:plain

基本的に無表情な夏羽ですが、だからこそ際立つこういった撫でられた頭を自身の手で反芻する仕草の切り取り。また、親の愛情に気づいた際に僅かに順光の照度が上がる描写。ここは髪のなびきもよいのですが、言ってしまえばまさに「世界が広がった瞬間」だよなと。
続いて2話、無痛による感覚麻痺、メタ的に「苦痛」を吐き出せない夏羽の描かれ方。この辺りは空の境界 痛覚残留の浅上藤乃Fate/stay night Heaven's Feelの間桐桜を何となく彷彿とさせました。

f:id:karipan:20210122193731g:plain

こういった彼の性格は夏羽の芝居付けにも表れていて、1話で隠神に「親に会いたいか」と言われたときの、こういった絶妙な口元の歪みとか。自身の感情を押し殺すプロセスの描き。このシーンを踏まえた上での2話でのイマジナリーラインの越え方が秀逸で、窓ガラスに映る隠神が下手(左側)・夏羽が上手(右側)に映ることで「これから1話のラストシーンのアンサーを描きます」と読み手に伝えてからの、イマジナリーラインの逸脱(左右反転)。

f:id:karipan:20210122195428j:plain
f:id:karipan:20210122195453j:plain
1話ラスト→2話ラスト。隠神が下手、夏羽が上手

f:id:karipan:20210122195513j:plain

左右反転、イマジナリーラインの逸脱。

こういった夏羽の自己意識の芽生えの描き方に胸を打たれました。今後も目が離せない一作です。

 

お次は「Dr.STONE 2期」。10GAUGE ✕ 依田伸隆による黄金タッグOPについては既にTwitterで触れたので、そちらを参照のほど。

本題は飛んで、2話ラスト。

f:id:karipan:20210122200023j:plain

卓越した知力で文明を駆け上がる、即ち未来を見つめ続ける千空にとって、寧ろ旧友との再会を介して「一瞬過去に思い馳せる」というプロセスは、彼にどれだけ叙情的な感情を叩きつけたのかは想像してもしきれないものがありますが、そういった筆舌に尽くしがたい感情を切り取った、アオリ+順光によって映し出される横顔に思わず目頭が熱くなりました。そしてここで挿入されるED楽曲のはてな-「声?」も、「電話通信」を意識したであろうイントロのノイズは、世界観の抽出としては十分すぎる演出でした。

f:id:karipan:20210122200848j:plain
f:id:karipan:20210122200911j:plain


EDアニメーションは太陽巧芸社制作。人類の進化・千空の成長とともに発展していく世界。そして石化にとって、千空は立ち止まり、文明は崩壊する。こういったあらすじ的なストーリーテリングが絵によってものの2,30秒でなされていくわけですが、楽曲のサビにて石化が解けて再び千空が走りだす瞬間、こういったアオリの構図で「先の景色を見せない」演出に、どうしようもなく心を動かされました。

f:id:karipan:20210122200929j:plain

横から映していたカメラが千空に追いつかなくなって、後ろから追いかけるように。そもそも不透明な未来を開拓していく物語であって、常に試行錯誤の連続。そういった人生讃歌を歌ったような「生きて 生きて 彷徨いながら足掻き探して まだ見ぬ先へ」という歌詞も最高で、トライ&エラーとも言うように、失敗はあっただろうけど決して逆行することはしなかった千空。だからこそただひたすらに、上手方向に走る千空をフォローし続けるカメラワークの熱量が半端ではない。

f:id:karipan:20210122200950j:plain


瞬く間に過ぎ去る時をただひたすらに駆ける描写、視覚的な時間の伸縮から生み出される叙情にとにかく感動の連続でした。


こういった演出は他作でもあって、例えば「ワンダーエッグ・プライオリティ」OPとか。

          アニメーター・ヨツべ氏Twitterより引用

写実的な背景に配置された虚構的なキャラクター達。バイオレンスな本編と相反するような日常描写の切り取りに寧ろ「人生」について深く考えさせられますが、こういったタイムラプス*1によって意識的に濃縮させられた時間の経過も、人生という余白の演出として十分すぎるカットだったように思います。丁度数時間前に視聴した「ひぐらしのなくころに業」にも、似たような演出意図でタイムラプスが使われていた点にも驚きました。

f:id:karipan:20210122201305g:plain

ひぐらしのなく頃に猫騙し編 其の参より。


あとタイムラプスとは全く異なってきますが、「時間の伸縮」という観点でいうと、先日YouTubeにて公開された「ずっと真夜中でいいのに。『暗く黒く』MV」。


ずっと真夜中でいいのに。『暗く黒く』MV(ZUTOMAYO - DARKEN)

勿論全体通して見てほしいのですが自分が一番気になった点として、動画の2:34~あたり、黒コマの挿入による間の撮り方も印象的だった、定点撮影カット。同じオブジェクトで違和感なくカットを連結しつつ、色合いだけで時の流れを演出する。主線を拾わないルックといい、今までにない革新的なアニメーションだったように思う。

 

時間という相対的な概念を工夫して切り取ることで生み出される、読み手の感情誘導、感情の昂ぶり。今期のアニメーションも目が離せなさそうです。

*1:数秒、数分に1コマずつ撮影したものを繋げて再生することで、早送りコマ撮り動画のようにする手法。有名どころだと、「君の名は。前前前世挿入シーン等。

2020/10-12月期終了アニメアンケート

アニメ調査室(仮)さんの企画参加&2020年秋アニメ総括となってます。
気楽に読んでいただければ幸いです。

 

目次

 

寸評

S評価
無能なナナ

f:id:karipan:20210121214309j:plain

©るーすぼーい・古屋庵SQUARE ENIX・「無能なナナ」製作委員会

初回の叙述トリックはあくまで作劇上の推進力に過ぎず、倒叙ミステリ軸で描かれる奇想天外な意外性は全くこちらの関心を衰えさせることなく、あわよくばミステリ作劇で「死」を日常とすることで、終盤の叙情的なフィルムへの反転への布石とする。画作りは最低限の情報投影、終始「読み手を楽しませる・驚かせる工夫」がプロット・構成に組み込まれていた。これぞエンタメよ。

 

・体操ザムライ

f:id:karipan:20210121214907j:plain

©「体操ザムライ」製作委員会

やっぱり少年スポーツ漫画に慣れすぎると、麻痺してくる選手生命の終着点。
今作はそんな「引き際に葛藤するプロ」の描写を明瞭なロジックでリアルに描きつつ、フィクションは虚構と割り切って、ポップなキャラクター造形に委ねる。特にレオ、玲ちゃん、バンダナ王子辺りのリアリティラインの塩梅は素晴らしい。BBはちょっとライン引き上げすぎかとも思ったが(笑)。ともあれそんなリアルと虚構の対比がくしくも作品の熱量とリンクする様は痛快。短尺で描くべき点をしっかり抑え切る構成力にも脱帽。オリジナル作品でこれができちゃう手腕よ。

 

・アクダマドライブ

f:id:karipan:20210121214815j:plain

©ぴえろ・TookyoGames/アクダマドライブ製作委員会

既存のクライムサスペンスフィルムをオマージュしつつ、独自のサイバーパンクな世界観に落とし込む、という外連味・やりたい放題感が最高。主人公を一般人に位置付けたのも、普遍的な主観を入り口にして、より外連味を際立たせるためだろう、巧い。そういったカオスの中でもキャラクターの掘り下げの抜かりなさには頭が上がらないが、そういった個々の意志を「アクダマ」と名付けたのも、ダンガンロンパの「コトダマ」だよなっていう。ダンガンロンパファンとして、素晴らしいリフレインフィルムを堪能させていただいた気分。

 

A評価
憂国のモリアーティ

f:id:karipan:20210121215041j:plain

©竹内良輔・三好 輝/集英社憂国のモリアーティ製作委員会

プロット的にはこの上ない前哨戦なわけですが、前座としては十分すぎるほどの面白さでした。強いて言えば、ある程度必要な「主人公の善の側面」として身分制度への不満が描かれていたが、大胆にフラットにするのか否か、その塩梅を知りたいな。結局カーストの有無はどちらにもメリット・デメリットがあるわけで、現時点ではモリアーティサイドの着地点が平行線。

関連記事
karipan.hatenablog.com

 

 

B評価
・神様になった日

f:id:karipan:20210121215239j:plain

©VISUAL ARTS / Key / 「神様になった日」Project

セルフオマージュに満ちた日常描写を、崩壊した世界の後で追体験した意味。
奇跡を否定した世界をひなと陽太に歩ませる、っていうストーリーテリングもそういうことだよなっていう。
これまで「奇跡」というデウスエクスマキナによって疑似的に救済してきたオタクたちに現実を見せる。個人的に「従来のファンに刺さらなくてもいい」という捨て身の作劇に思えた、奇跡のない世界だって個々の幸せは確かにある、だーまえの描きたいことは確かに伝わった。
とはいえ構成配分やキャラクター毎の行動理念の掘り方には難あり、個人的に高評価は下せないが、好みの作品ではあった。製作体制をしっかり整えて(特に監督チョイス)のだーまえ再戦待ってる。

関連記事(主にセルフオマージュの点に触れてます)

・ 「神様になった日」3話感想-麻枝准のメタ的セルフデプリケーション・ユーモア - カリーパンの趣味備忘録 (hatenablog.com) 

「神様になった日」5話―死後の世界に陶酔する人、引き戻す麻枝准 - カリーパンの趣味備忘録 (hatenablog.com)

「神様になった日」 7話感想―卵の殻(世界)、内から割るか?外から割るか? - カリーパンの趣味備忘録 (hatenablog.com)

・魔女の旅々

f:id:karipan:20210121215345j:plain

©白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会

ディテールは好みの部分も多いが、教訓臭さが癪に障る点もチラホラ。
挿話ごとに印象・評価がくっきり分かれてしまう構成もネック。
とはいえ撮影処理へのこだわりや、多彩に見えて一貫した作劇の方向性は高評価。

 関連記事

karipan.hatenablog.com

 

トニカクカワイイ

f:id:karipan:20210121215500j:plain

©畑健二郎小学館トニカクカワイイ製作委員会

書きたいことは関連記事に書いたのでそちらを参照のこと。
だら見するのには丁度良かったし、結構ドキッとする画作りもあったり。始発点が結婚から始まるのは逃げ恥と構造が似てるが、寧ろ類似点はそこだけで男作者と女作者のラブコメの描き方として比較すると面白い。

関連記事
karipan.hatenablog.com

 

・GREAT PRETENDER

f:id:karipan:20210121215714j:plain

逆算され尽くされたプロットを、ポップで虚構的なキャラで彩る。構造は全く違えど、作劇手法は体操ザムライと似通っていた気もする。
視野を広げることで得られる救済もある。ドラマ畑の方らしい整った脚本は感心でしたが、割かし無難に着地してなんか盛り上がりに欠けていたような。放送する予定の深夜アニメを先にサブスク配信で一挙配信するの、やめません?(切実)
総じてオリジナルアニメのよさを活かしきれていない作品にも感じた。BNA思い出した

 

 D評価
・100万の命の上に俺は立っている

初回の、どこ向けの需要が分からない読み手への侮辱としかとれない演出。豪速納品から紡がれる画作りの稚拙さ。どちらも見るに堪えなかったが、物語としては案外見れるレベルだった。
カハベルさんのキャラ立ちが特に印象的で、そんな良キャラが異世界側の人間だったのも、やっぱり異世界更生プログラムみたいなことを描きたかったのかな、と。分割2クール目は過密スケジュールじゃなかったら見るかも。

 

総評

今期スケジュールが過密すぎる。いいことでもあるのですが。総括も遅れて気づけばこんな時期。

まず切った作品についてちょろっと。まえせつは言わずもがな。くまクマ熊ベアーも見るのが苦痛と気づいた時には切ってました。安達としまむらとアサルトリリィ、この辺りも作品としては非常によくできていると感じたのですが、如何せん自分に合わなかった。逆に言えば、やっぱり自分はNL作品の方が好きなんだな、と改めて気づかせてくれた作品でもあった。ここまで言っておいて何を言い出すんだという感じなんですが、虹ヶ咲は皆さんの感想を読んで自分に合ってそうだと感じたので、近々見ようかなといった次第。

ここから本題、今期は総じて「普段アニメを描かない」ライターの方々の活躍が良くも悪くも目立っていたかな、という印象。ゲームライターは小高和剛(アクダマドライブ)、るーすぼーい(無能なナナ)、麻枝准(神様になった日)。ラノベライターは長月達平(戦翼のシグルドリーヴァ)。ドラマ脚本家は古沢良太(GREAT PRETENDER)。

しかしアクダマドライブはあくまで原案、無能なナナは漫画原作にとどまっているわけで、アニメ作品そのものへの関与度は低めであると言える。基本的にはアニメ畑のクリエイターに委ねる形。であるにも拘らず、原案・原作者が本来持ち得る作家性を保持しつつ、アニメーション作品として落とし込まれている点は痛快でした。逆に言えば原作・脚本という比重を背負っただーまえの神様になった日は、やはりどこかプロット構成として稚拙な部分が見え隠れしていた。
戦翼のシグルドリーヴァは7話辺りで断念したため自分なりの正当な評価は下しづらいですが、シリーズ構成・脚本という大事なセクションを普段アニメを描いていない人間に委ねるのは無理もあったかなと。特に今作に至っては、長月氏本人がTwitterで実況説明していましたからね(笑)。後からSNSで設定補強しなあかん作劇を作るな、という話。だから最近のラノベ作家が放送中にSNSで実況する風潮が好きになれない。

話が逸れましたが、他方クリエイターがアニメとどれほど直接的・間接的に携わればよいのか、について改めて考えさせられるクールでした。アニメ畑の人間だけでつくられたオリジナルアニメの体操ザムライがダークホースとなっていた点も、そういった観点からすると印象的でした。

おわり

 

アンケート回答

※F評価は視聴を断念した作品です。必ずしも最低評価というわけではありません。

2021冬調査(2020/10-12月期、終了アニメ、56+1作品) 第59回

01,まえせつ!,F
02,無能なナナ,S
03,魔女の旅々,B
04,ぐらぶるっ!,x
05,ギャルと恐竜,x

06,体操ザムライ,S
07,まるまるマヌル,x
08,安達としまむら,F
09,神様になった日,B
10,アクダマドライブ,S

11,トニカクカワイイ,B
12,くまクマ熊ベアー,F
13,魔王城でおやすみ,x
14,神達に拾われた男,x
15,レヱル・ロマネスク,x

16,憂国のモリアーティ,A
17,土下座で頼んでみた,F
18,炎炎ノ消防隊 弐ノ章,F
19,兄に付ける薬はない! 4,x
20,戦翼のシグルドリーヴァ,F

21,ゴールデンカムイ 第三期,x
22,おちこぼれフルーツタルト,x
23,池袋ウエストゲートパーク,F
24,別冊オリンピア・キュクロス,x
25,メジャーセカンド 第2シリーズ,x

26,かえるのピクルス きもちのいろ,x
27,100万の命の上に俺は立っている,D
28,エタニティ 深夜の濡恋ちゃんねる,x
29,いわかける! Sport Climbing Girls,x
30,秘密結社 鷹の爪 ゴールデン・スペル,x

31,もっと! まじめにふまじめ かいけつゾロリ,x
32,カードファイト!! ヴァンガード外伝 イフ if,x
33,シルバニアファミリー ミニストーリー ピオニー,x
34,ヒプノシスマイク Division Rap Battle Rhyme Anima,x
35,ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかIII,F

36,キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦,F
37,ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会,x
38,ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN,x
39,ハイキュー!! TO THE TOP 第2クール,x
40,アイドリッシュセブン Second BEAT!,x

41,BanG Dream! ガルパ☆ピコ 大盛り,x
42,A3! SEASON AUTUMN & WINTER,x
43,魔法科高校の劣等生 来訪者編,x
44,ご注文はうさぎですか? BLOOM,x
45,どうしても干支にはいりたい2,x

46,ツキウタ。 THE ANIMATION2,x
47,禍つヴァールハイト ZUERST,x
48,One Room サードシーズン,x
49,アサルトリリィ BOUQUET,F
50,ゾイドワイルド ZERO,x

51,NOBLESSE ノブレス,x
52,GREAT PRETENDER,B
53,それだけがネック,F
54,(全13話) 忍者コレクション,x
55,(特番 8話) 大人にゃ恋の仕方がわからねぇ!,F

56,耐え子の日常 (2期),x

参考調査

t1,(参考調査) HERO MASK Part2,x

「ホリミヤ」1話&OP演出感想―四角形テリトリー

ホリミヤ」1話アバン。

f:id:karipan:20210111170039j:plain

f:id:karipan:20210111165811g:plain

髪を横流しする堀の芝居付けの良さに見惚れる間もなくすぐさま次のカットへ、微かなカメラのスライド&キャラクターの瞳を介するカット転換による視線誘導。キャラクターたちの芝居は生活感に溢れて自然でしたが、こうして意識的に演出されたキャラクター毎の感情ベクトルの差異の表現はせわしなく、何かしらの意味合いを感じずにはいられませんでした。

f:id:karipan:20210111170515g:plain

例えばその後、宮村とすれ違う直前の、こういったカットとか。すれ違うとはまさにベクトルの向きが衝突するという意味合いと同義ですが、町を行きかう人々の方向性の意識づけ、背景のスライドに仮託された物語が動く「予感」。余すことなくカットを切り取りだしたらキリがないのですが、とにかく方向性を際立たせるカットの数々は、とても面白いコンテの切り方だと感じました。

 

そしてここでOP。待ってました、石浜真史。相変わらずの影へのモチーフ性の持たせ方、オサレなスタッフクレジットの置き方、オーバーラップ*1で印象的なカットを小出しにする演出などは、彼のコンテの特色を否応なしに表していました。

f:id:karipan:20210111163709g:plain

コマ割り構図のような四角形の強調、閉塞感を記号的に表したような箱→窓→…というマッチカット*2演出も秀逸。そしてここでも描かれる方向性、というより逡巡する個々の思案をメタファー的に表したような、「回転」の演出。背景と違うスピードで、回り込むように落ちていく宮村の立体感。ここ以外にも数か所にみられる、手前のセルと背景を逆方向に引く描写。

f:id:karipan:20210111164942g:plain

必要な情報を含ませつつ作品をシンボル的に示す、やはりオープニングはこうでないと。

 

そして再び本編。相変わらず丁寧な芝居付けで表されていく二人の距離感、その距離感の物差し&本作の特徴ともいえる「普段秘匿している二面性」の共有。まあこれもラブコメの鉄板といってしまえばそこまでなんですが、それを視覚的に表現した石浜真史氏のコンテ切りがとにかくすごい。

例えばそれは、宮村が「堀が仲良くしているクラスの女子を見かけた」旨を堀に報告するシーン。

f:id:karipan:20210111172124j:plain
f:id:karipan:20210111172144j:plain

f:id:karipan:20210111172210j:plain

窓ガラスに映る虚像に仮託された二面性から「虚像のみ」になるカット背景の白飛び、そしてイマジナリーライン*3の逸脱(左右反転)。窓ガラスによるフレーム内フレーム*4、というより窓ガラス越しに映したカットへの転調が印象的で、繊細な距離感の表れの中で、確実に堀の心情に「動き」が見えた瞬間が切り取られたカット運びに思わず息をのみました。

一連のイマジナリーライン越えの流れでも用いられていたフレーム内フレーム、ここで何となく、OPでひたすら強調されていた「四角形」への意味合いがより強固に根付いてくるわけですが、その後のカットでもやはりしきりにでてくる「四角形」に閉じ込められたような宮村のカット。

f:id:karipan:20210111172348j:plain

窓枠によるフレーム内フレーム。

自分じゃ釣り合わない、そういった自己肯定の低さから一歩を踏み出せずに籠る。こういった恋愛論もいささか記号的に処理されていくものの、やはりそれだけでは表せ切れない本作ならではの距離感は、気取らない自然体な芝居付けで補完されていく。この塩梅が非常に心地よい。

 

そうして視覚的に宮村のパーソナルスペースを演出したうえでのラスト、堀と宮村の会話シーン、ここの足の芝居がとても良い。

f:id:karipan:20210111171808j:plain

宮村の足

f:id:karipan:20210111171647g:plain

堀の足

自己肯定の弱さから後ずさる宮村。そして堀、一歩その場で踏み込むことによる間合いによる緊張もいいのですが、続けざまにカメラのフレーム外、即ち「宮村のテリトリー」へと歩みを進める。ここまで丁寧な芝居付けで視覚的な「自己紹介」を重ねたからこそできる、弱気と強気と対比を表しきった雄弁な演出、個々のパーソナリティを描く上でかなり意味を含ませたカット運び、つられて自然と感情が動かされました。

それとなく複雑化していくであろう人物の相関関係、四角形という平面的な概念から、立体的になっていくであろうことが示唆されたOP。個々の色づいた影は、どの方向へ伸びていくのか。既に多少シュールな展開もありますが、これから彼ら・彼女らがどう物語を紡いでいくのか、見届けたい気持ちにさせてくれた初回・OPでした。話数絵コンテ、石浜さんが積極的に参加してくれることを願う。

*1:前後のカットを重ねながら画面を切り替える手法。

*2:本来なら繋がらない複数のカットを、視覚的、比喩的な類似性によってつなぐこと。

*3:想定線と同義。二人の対話者をつなぐ仮想の線。本記事では、その線を跨ぐ(カメラを180度回転させた角度から撮る)ことについて触れている

*4:画面の中に、更にもう一つのフレーム(仕分け)で囲われていること

2020年秋アニメ―月の演出やレイアウト構成のモチーフ性

あけましておめでとうございます、カリーパンです。今年も何卒よろしくお願い申し上げます。

2020年秋アニメ、コロナ延期明けの影響もあってか、かなりたくさんの作品に触れることができとても楽しいクールでした。本記事では、前クールアニメの演出面を中心に、色々考えを巡らせる場になるかと思います。

 

まずは「トニカクカワイイ」。気恥ずかしさすら感じられる相思相愛な夫婦コメディ。原作の畑健二郎先生の奥さんに対する愛情、何個か用いられているであろう体験談からなるエピソードは、まさにライターの幸福感が感じられ、非常に見ていて心地の良い作品でした。

竹取物語」を彷彿とさせる絶妙なリアリティラインも本作の魅力でしたが、そういった雰囲気を引き出していた存在として、やはり「月」の描写に仮託されたモチーフ性は、無視できない点もあったように思います。例えば1話、事故を起こしたナサ君を引き上げる司のシーン。

f:id:karipan:20210102143743j:plain
f:id:karipan:20210102143809j:plain

司と月を映したカットは一見ナサ君視点の主観ショットのように思う、というより、主観ショットではあるのですが、どこかぬぐえない、月と人物描写の距離感に対する違和感。本来ナサ君視点ではもっと月が小さく見えるはずなのに、あえて遠くにある被写体を大きく映す、望遠レンズ*1的なレイアウト。アニメーションにおいて、キャラクターが月に手を伸ばすことで、そのキャラクターの到達目標・目的との距離感をフィルム的に表す、という演出は鉄板ですが、今作は視覚的にナサ君と司の間の距離を切り離すことで、どこかリアリティが欠如した、「(司が)掴めそうで掴めない存在」であることを印象付けるシーンに思いました。

しかしそれは決して二者間の断絶を表しているのではなく、元々博識な二人が他者とのダイアローグを通して互いを理解することで、「距離を縮める」作劇である、ということを端的に表していたように感じました。

f:id:karipan:20210102145225g:plain

だらかこそ1話終盤、こういった月へのPANアップ・PANダウンによるシームレスなカット繋ぎも、やはり「月」を介在させることで伝えたい二人だけの距離感があるんだろうな、という。立ち位置を始めとしたレイアウト構図、二人だけの空間を立体的に照らすライティングの塩梅。コンテの切り方や撮影処理に「トニカク」こだわりを感じた初回でした。だから自然と、ナサ君が追いかける物語から、司をエスコートする物語にシフトしていくような画作りも良かったです。

f:id:karipan:20210102145833j:plain
f:id:karipan:20210102145850j:plain
左が初回、右が最終話。立ち位置の転換が良い

作画が単調という旨のツイートをよく見かけましたが、むしろこういった拾いやすい線で描かれた、スッキリしたキャラクターデザインの造形は、芝居付けも見通しが良かったし、なにより原作の雰囲気がそのまま踏襲されていて、制作スタッフ様には感謝の言葉もないです。

 

キャラクターデザインといえば、もう一作ピンときたのが「憂国のモリアーティ」。現代の読み手の身に馴染みやすいよう、多少原作「シャーロック・ホームズ」からの脚色は見受けられました。

f:id:karipan:20210102150431j:plain

機関蒸気、煙草、霧。撮影処理による空気感が◎

しかし、19世紀後半当時の時代考証に基づいた差別描写・階級制度の描き方は素晴らしかったし、産業革命当時の雰囲気をを存分に演出した「淀んだ空気感」の撮影処理もこだわってた。

キャラクターデザインの話に戻りますが、「女性向けのキャラデザ」と言ってしまえばそこまでなんですが、意識して造形されたソリッドな頭身・顔立ちは、やはり作品の魅力を存分に引き出していたと思います。

f:id:karipan:20210102150940j:plain
f:id:karipan:20210102150954j:plain

例えば1話の、こういったカットとか。前半クールの中でウィリアムが煙草を吸ったシーンはここだけなんですが、背中を映すカットの余白、そこからのこの表情芝居。風による髪のなびきの描写もすごく自然な感じで最高にいいんですが、彼の中では背中の後ろで起こっている犯罪行為こそが日常になってるんだよなっていう。過去編をとばして、敢えてこの回を挿入した意図。彼の人間性を語る上では十分すぎるほど雄弁な挿話でした。

そして第三話、ここでまた印象的な「月」の描写が。

f:id:karipan:20210102151936g:plain

表情の影が緋色のライティングを帯びていく。

アルバートが一線を越えるシーン、緋色を基調としたフィルムに転換するのも特徴的ですが、前へ歩を進めるアルバートとリンクして照らされる表情へのライティングの浸食。「越えてはいけない何か」を跨いでしまったかのような。そして、またしても手前の被写体と背景の月の距離感に敢えて違和感を持たせる、望遠レンズ的なレイアウト。

f:id:karipan:20210102152341j:plain
f:id:karipan:20210102152301j:plain
「月」に対する距離の違和感が”直る”。

物語の狂気性・異質さを強調するような画作り、そして物語が次の場面に移ると、通常のレイアウトに”戻る”。読み手を引き付ける物語は起伏の作り方が巧みで、盛り上がるシーンの合間に「余白」(読み手が状況・感情を整理する間)が意識してつくられていることが多いですが、こういった意識的なフィルムの転換からもそういったメリハリの良さが感じられ、より感情移入できた場面でした。

月を映すカメラの遠近感の工夫といえば、配信&劇場アニメ「BURN THE WITCH」も印象的でした。簡単に表裏がひっくり変える世界、「ドラゴン」という異形が中心となって、日常性を堅持する既存社会の崩壊を描く物語でした。戦闘シーンでは特撮的な撮り方を思わせるロングショットなども印象的でしたが、特に「シンデレラ」と称されたドラゴンが君臨するシーン。

f:id:karipan:20210102152916j:plain
f:id:karipan:20210102153213j:plain

f:id:karipan:20210102154544g:plain

足を食い込ませた際のカメラのブレ、羽で時計を覆い隠すというような巨大感を表す演出も最高にいいのですが、ここでPANアップで映されるシンデレラと「月」の共演は、モチーフ性・虚構性を際立たせる描写としては十分すぎるほどのインパクトある描写。

川野「怪獣映画というか、なるべく望遠でカメラを置いたり、カメラ位置を下げたりして、巨大感を出す定番の表現を入れています。

月刊ニュータイプ11月号のインタビューにて川野達朗監督がこうおっしゃっていましたが、特にそういった視覚的な工夫が見られる場面だったように思います。

f:id:karipan:20210102152902j:plain

そしてこの後、即座にニニーとのえるの肩越しに捉えた広角レイアウトにカット転換するのも「なるほどな」と唸らされるのですが、ここで一旦「画面の中で一番注目されている被写体」から距離をおき、それ(シンデレラ)と対峙する人間サイドの主観的な視点に戻すことで、「ドラゴンの存在感を強調する→それと対峙している側の緊張感」を連続的に演出することに成功しているカット繋ぎ。考え抜かれた「異形の存在感」の描き方は、思わず声を上げてしまいそうになるほど圧巻でした*2

 

そして最後に、「魔女の旅々」。

f:id:karipan:20210102155427j:plain
f:id:karipan:20210102155448j:plain

f:id:karipan:20210102155557g:plain

目のハイライト回転。撮影に凝ったアニメ

例えば2話なんかでは、窓から射す月光の逆光により照らされるイレイナ、そして対照的に、芝居ごとに目のハイライトや表情の光量が変化するサヤ。そして曇りが晴れて満ちる月の描写は、まさに二人の関係性を表しているようで非常に叙情的でした。しかしここで注目したいのが、そういった演出が示す意図や意味合いというよりも、本作が「小説原作」であること。例えば上で挙げた「トニカクカワイイ」と「BURN THE WITCH」なんかは一部原作読了済みですが、やはり漫画であるため、先に挙げたモチーフ性を象徴する「月」の描写がある程度画としてなされているからこそ、映像にもアダプテーションしやすいだろうと思う。「魔女の旅々」は原作未読なのが歯がゆいですが、もしそういった「月」の情景描写がある程度地の文で書かれていたとしても、やはりそこは地の文を映像として抽出するアニメスタッフの器量に委ねられるわけですが、こういった「小説→映像化にあたってのレイアウト的な工夫」を想像するのが非常に楽しい作品でした。

f:id:karipan:20210102160159j:plain
f:id:karipan:20210102160223j:plain
左は2話、右は5話より。

例えばそれは、作品における視覚的な方向性。アバンにてイレイナがほうきで飛んでいる描写から始まる挿話は、決まって上手から下手(右から左)へと飛んでいく。まるでそれが旅路の順方向、「後戻りできない旅」を象徴するかのように。それを裏付けるかのように、第10話「二人の師匠」では、旅路を順方向に飛んでいたフランとシーラが、弟子たちの危機を察知して、旅路を下手から上手へ逆行する(引き返す)描写が印象的でしたが、こういった意識的な方向性に仮託した意図は無視できないと思います。

f:id:karipan:20210102160600j:plain

そして最終話。これまでの挿話で喜劇や悲劇を交互に描いてきたり、そして最終回では選択の違いによって分岐した様々なイレイナのアイデンティティを描いたりと、とにかく「色んな世界観・イレイナを描きたい」という筆者のエゴが見え隠れしていてとても楽しく鑑賞しておりました。魔女の旅「々」とはそういうことだったのかと。そういった世界観に対する幅の持たせ方が、序盤の「魔女」に対するリアリティラインが掴みづらい要因となっていましたが*3、最終回で多元的な解釈を演出するためのささやかな弊害だったのだろう。そして最終回のラストシーン。

f:id:karipan:20210102160858j:plain

後戻りのできない旅、選択の重要性を今一度強調するように、再びイレイナが順方向へ飛んでいく描写にとにかく心を動かされたのですが、後悔の念故に逆行していた「粗暴なイレイナ」と和解をしてからこの描写を挟んだ点も、「彼女が彼女であるため」の旅路なんだよなっていう。

 

こういった地の文では表現しきれない視覚的な訴えを目の当たりにすると、改めて「アニメってすごい」と思わされるわけです。この文化を好きになれてよかったとしみじみ思う、今年もたくさん「アニメ」の魅力を体感できる1年でありますように。

 

 

*1:被写体とカメラの距離が離れており、その距離感のままズームして撮影されたカット。こうすることで被写体と背景の物の距離感が平面的になり、キャラクターと物の対比が分かりやすくなる。

*2:特に自分は劇場で見たから、という相乗効果も込みかもしれない

*3:「魔女の旅々」作中において魔女の地位の分かりづらさ・魔法の優位性等

話数単位で選ぶ、2020年TVアニメ10選

新米小僧さんが企画されている伝統ある企画、恐縮ですが初参加させて頂こうと思います。今年から集計がaninadoさんに委託されるそうです。改めてよろしくお願いします。

aninado.com

■「話数単位で選ぶ、2020年TVアニメ10選」ルール
 ・2020年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
 ・1作品につき上限1話。
 ・順位は付けない。 

 選出基準にこれといった偏りはありません。単純に好きな回の選出・感想となってます。

 

 目次

 

ID:INVADED  FILE:06「CIRCLED」

脚本:舞城王太郎 絵コンテ:久保田雄大 演出:久保田雄大 栗山貴行 作画監督:浅利歩惟 豆塚あす香

f:id:karipan:20201221210330j:plain
f:id:karipan:20201231011240j:plain

電車窓やガラスを介して視線を交わす井波と数田、意識的な想定線の逸脱、そして何より俯瞰ショットで映される、「目的地」を持たない円環線路を走る列車というモチーフ性。
殺人心理の視覚化という挑戦に真っ向から挑んだ今作でしたが、特に今挿話は、サスペンスとしての緊張、そしてその渦中で紡がれる歪なヒューマンドラマとして描かれる叙情の波が、作劇のスパイスとして極上でした。世界観を引き立ててくださった水曜日のカンパネラさんの挿入歌には感謝の言葉もない。本堂町の転換点としても印象的な回であり、プロットの中間点としての役割付けも◎。

 

 

彼女、お借りします 満足度12「告白と彼女 -コクカノ-」

脚本:広田光毅 絵コンテ:古賀一臣 演出:古賀一臣 作画監督:野本正幸、飯田清貴、加藤 壮、時矢義則、ウクレレ善似郎、高橋敦子、平山寛菜

f:id:karipan:20200929092218j:plain
f:id:karipan:20200929100518j:plain

1話のダッチアングルとの対照性を意識したキメのタイトルロゴが印象的なカット、そしてダイアローグのシークエンスが歩道橋や踊り場の上で繰り広げられるのも、「関係性の転換点」として意識しやすい良い場面設定。
マッチポンプな恋愛劇の中、確実に初期より進展していた関係性を、徹底的な対照性で描くコンテの切り方にひたすら感心させられた最終回でした。2期も是非同スタッフで制作していただきたい。

 関連記事

karipan.hatenablog.com

 

 

僕のヒーローアカデミア(第四期) 第86話「垂れ流せ!文化祭!」

脚本:黒田洋介 絵コンテ:サトウシンジ 演出:池野昭二 作画監督大塚明子、佐倉みなみ、橋本治奈 総作画監督:小田嶋瞳

f:id:karipan:20201222215002j:plain
f:id:karipan:20201231011745j:plain

今作でよく用いられる「オリジン」という言葉に込められた、ヒーローになる上での目的意識。そういったキャラクター毎の向上心を熱量と理屈で描きとる今作において、耳郎が被っていた逡巡の殻を突き破る描写、またそれに劣らない歌唱曲や、可愛らしい・カッコイイ芝居がふんだんに詰め込まれたクラスメイトのダンス描写は、とてもエモーショナルでした。ヒーローを志す際のイニシエーションとして「人からの後押し」の描写を最も大事にする今作、耳郎の両親→耳郎→エリという伝播するかのような描き方も◎。

 

 

イエスタデイをうたって 第3話「愛とはなんぞや」

脚本:田中仁 絵コンテ・演出 伊藤良太 作画監督:藤原奈津子 渥美智也 松浦麻衣 山野雅明 菊永千里 菊池政芳 海保仁美 菅原美智代 上野沙弥佳 高山洋輔 総作画監督谷口淳一郎

f:id:karipan:20201231001926j:plain
f:id:karipan:20201231001911j:plain

信号機や標識に仮託された停滞のモチーフ性、晴と陸生の交差する感情を如実に表したかのような、道路に引かれた白線の数々。そういったレイアウト構成にも感心してしまうのですが、そういった記号的な演出はあくまで「演出」にしか過ぎなくて、停滞と前進を何度も繰り返す今作において、この回が紛れもない晴にとっての転換点として描かれていたことが何よりよかった。
想いの強さ故の反発、どこか保身のために逃げ場を作ってしまう。そんな彼女が自ら逃げ場を潰すかのような自己紹介シーンは、まさしく本作のラストと直結する大切な場面として描かれているように感じました。

 

 

乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった… 第11話「破滅の時が訪れてしまった・・・後編」

脚本:清水恵 絵コンテ・演出 井上圭介 総作画監督大島美和 総作画監督補:井本由紀 佐藤香

f:id:karipan:20201231003130j:plain
f:id:karipan:20201231003144j:plain

この回までカタリナは、どこか身の回りのキャラクターを「破滅を回避する」ためのピースと捉えていたわけですが、前世の疑似体験を経て、周りのキャラクターたちがかけがえのない存在であること≒今の世界(FORTUNE LOVER)が現実であることに気づく描写が良い。
メタ的な話にはなりますが、今まで愛情をフラグと称したりとゲーム的観念に囚われていたカタリナですが、主体的な選択で帰還することによって「第二の人生」感が強まる。
「ずっと見守ってる」。あっちゃんとは今生の別れではない、だから手が虚空をつかむわけじゃなく、指先が触れ合う芝居がとても良い。

 

 

デカダンス 第2話「sprocket」

脚本:瀬古浩司 絵コンテ:立川譲 演出:三浦慧 総作画監督:栗田新一 作画監督:三島詠子

f:id:karipan:20201231003732j:plain
f:id:karipan:20201231003714j:plain

2020アニメ、リアルタイムで鑑賞していて一番衝撃を受けた回はと聞かれたら、間違いなく今回。
初回の生気溢れる世界観から一転、叙述トリックで描かれるマッチポンプな世界観に度肝を抜かれました。ソリットクエイク社内のサイボーグはカートゥーン調でポップに描かれており、外で必死に生きるタンカーとの皮肉的な対比も痛烈だった。しかしそういったマイナスな対比だけではなく、サイボーグたちの生の活力といえるオキソンを注入しながら、人間に生を実感した「サイボーグ体の」カブラギに「俺は確かに、救われたんだ。」という台詞を委託する脚本がなかなかに憎い。今作が放送されていたクールの中で一番好きな台詞。

 

 

アクダマドライブ 12「アクダマドライブ」

脚本・絵コンテ・演出:田口智久 作画監督:Cindy H. Yamauchi 立川聖治 稲留和美

f:id:karipan:20201231004533j:plain
f:id:karipan:20201231004518j:plain

ダンガンロンパ」の小高氏らしいケレン味に仕込ませた真っ直ぐな芯、そしてそれをリッチに脚色してくださった田口監督の手腕が一番表れた回。最後まで仕事をこなさんとする運び屋、外を見たいとあがく兄妹、両者の目的のベクトルの方向性の違い、しかし確固たる意志の強靭さが伺える「真逆に走り出す」レイアウトなどに凄く胸を打たれたのですが、かくして固有名詞による役割付けが決められた世界で、「一般人」という、無色故に「何者にもなれる」アクダマが変えた世界。そういえばダンガンロンパも、冴えない少年が強靭な意志で世界を覆す物語だった。
思えばアクダマも、ダンガンロンパにおいて「真っ直ぐな意志」の意である「コトダマ」のもじりだったのだろう。グローアウト演出*1で先の景色を見せない兄妹の背中は、メタ的ではあるが「最後まで意志を曲げなかったものだけが見れる景色」を示唆していたように思う。
Blu-ray最終巻にはディレクターズカット版が収録されるそうだが、上で挙げた理由から、兄妹のその後は描かないでほしい、というのが本音。

 

 

体操ザムライ #11「体操ザムライ」

脚本:村越繁 絵コンテ:宇田鋼之介 演出:清水久敏 宇田鋼之介 大槻一恵 久保田雄大 下司泰弘 吉村愛 作画監督吉田正幸 浅尾宏成 本多みゆき 藤田亜耶乃 斎藤美香 濱田悠示 青木里枝 戸沢東 柴田志朗 松岡秀明 山門郁夫 桑原幹根 村長由紀 崔ふみひで 岡崎洋美 本田敬一 冨永拓生 野崎真一 大津直 Studio Bus

 

f:id:karipan:20201231005304j:plain
f:id:karipan:20201231005246j:plain

引き際のサムライの勇姿を描きつつ、今まで丁寧に掘り下げられてきたキャラクターたちが、サムライの姿を見てどこを目指すのか、という「個々の到達目標」を30分尺で描き切ったバケモノ脚本回。
スポーツアニメでおっさんに主人公を委託した意図、典型的なスポ根的熱量ではなく、避けては通れない「バトンタッチ」の過程を描きたかったんだよなっていう。だからこそレオや南野の表情芝居、玲ちゃんの大女優への第一歩、若手選手たちが城太郎から何を取り入れることができるかを考える姿が刺さる。計算された脚本、されど全く不快感を感じない清々しさ。

 

 

オオカミさんは食べられたい 第3話「先生の特別なひとりになりたい」

作画監督:山根あおい 平山友理 眠太 辻司

f:id:karipan:20201231005742j:plain

やはりお世話になった以上、この作品からは逃げられないよな、という理由から漢のチョイス。もちろんプレミアム版も有料視聴。
僧侶枠とかいう僻地で腐らすには勿体ないキャラクターデザインのよさ、謎に気合の入ったHシーン。これだから僧侶枠ガチャはやめられない、今一度この枠の需要を噛み締め痛感させられた神回。

 

 

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完 第10話「颯爽と、平塚静は前を歩く。」

脚本:大和慶一郎 絵コンテ:大原実 演出:佐々木達也 作画監督:北村友幸 清水直樹 谷川亮介 林信秀 劉云留

f:id:karipan:20201231010343j:plain
f:id:karipan:20201231010402j:plain

f:id:karipan:20201231010953j:plain


思春期の青春、拗らせまくった関係性。そういったもどかしさや気恥ずかしさが、叙情的な撮影処理や丁寧な手・足先の芝居付けなどへ如実に反映されたフィルム作りがなんとも好きだった今作ですが、中でもこの回は、そういった画作りに対して強い意図を感じた回でした。
心の充足を求めるかのように、廊下に差す儚げな月光の撮影処理。肩越しショットで映される雪ノ下に対して、ガラス越しで映される虚像の八幡、この距離感の演出がたまらんのですわ。どうでもいい言葉で埋め尽くされた距離感、その隙間の正体を教えてくれる平塚先生の描写もほんとにいい。思春期の葛藤を乗り越えてきた人生の先輩だからこそ明示できた「好き」へのロジック、そういった意味合いも込めてであろうサブタイトルの「颯爽と前を歩く」という表現も凄く好きな回。

 

 

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
選出候補として、映像研には手を出すな!、かくしごと、魔女の旅々辺りは泣く泣く外しましたが、コロナ禍とはいえ今年も素晴らしい作品に溢れていました。製作スタッフの皆様には感謝しかない。
今投稿で今年は投稿納めとする予定です。2020秋アニメ総括はまた年明けに別記事にて行う予定です。今後とも「カリーパンの趣味備忘録」をよろしくお願いします。

*1:光を浴びつつ、白飛びしたように消えていく演出

テレビアニメ OP10選 2020

企画初参加です、よろしくお願いします。

・2020年放送のTVアニメのオープニングより選出。

・順位は付けない 

 

1.「彼女、お借りします」センチメートル

歌:the peggies 絵コンテ・演出:古賀一臣 作画監督:平山寛菜

f:id:karipan:20201229202904j:plain
f:id:karipan:20201229203221j:plain

 

本編とリンクするかのようなタイミングで挿入される歌い出し・タイトルロゴがとにかく自分にストライクだったのですが、「これから始まるぞ」というスイッチが入りやすい、まさにオープニングとしての役割を最大限に引き出している演出でした。
ヒロインたちのつぶさな芝居を余さず拾うコンテ構成、カットバックで映される届きそうで届かない場所に懸命に走り続ける和也の描写。本編とリンクするかのような、the peggiesさんの歌唱・歌詞に表れたもどかしさのようなものも相まって、非常に好きなOPでした。

 

2.「呪術廻戦」廻廻奇譚

歌:Eve 絵コンテ・演出:山下清悟 総作画監督平松禎史

f:id:karipan:20201229203956j:plain
f:id:karipan:20201229203820j:plain

膝まで浸水した虎杖のファーストカットから始まり、俯瞰ショットで環状線が映し出されたのちのタイトルロゴの開示。そしてラストカットも、ファーストカットと同様の構図で締める。ファーストカットからラストカットへの帰結は、何となく「Re:ゼロから始める異世界生活」1期のOP1「Redo」を思い出したのですが、とにかく強調される「循環」のモチーフ性。
山下清悟さんといえば「水」を記号的に用いたコンテ構成が印象的ですが、本OPでも、水が自己を映し出す鏡面だったり、はたまた浸水する描写に仮託された「溺れていく」という恐怖感を引き出される演出の数々。しかしその中でも、キャラクター毎の造形の質感(特に髪)や、サビに散見される動的なカメラワークの数々は、記号的になりすぎないような塩梅を感じられ、こういった点も山下さんの信頼できるコンテの切り方だな、と再確認。

f:id:karipan:20201229204539g:plain

サビ終盤、物語の伏線をオーバーラップでせわしなくチラ見せする演出は、どことなく石浜真史氏感。こういった演出も、本編への関心が高まるよい画作り。

 

3.「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」ごまかし

歌:TrySail 絵コンテ・演出:吉澤翠 作画監督谷口淳一郎

f:id:karipan:20201229205034j:plain
f:id:karipan:20201229205055j:plain

魔法少女まどか☆マギカ」OP「コネクト」をリスペクト的にオマージュしたかのようなコンテ構成。少女たちの愛らしい仕草をしっかりと拾いながら、雨の描写を中心とした、落下する水滴から連想される不穏な雰囲気の演出。記号的に示された世界を、必死で走るいろはをフォローで捉えるカメラワーク。
勿論TrySailさんの可愛らしくも熱のこもった歌唱も素晴らしかったですが、それ以上に無印まどかの良さを再確認できたOPでした。

 

4.「ひぐらしのなく頃に業」I believe what you said

歌:亜咲花 作詞・作曲:志倉千代丸 絵コンテ:小川優樹 演出:さんぺい聖 総作画監督渡辺明夫 作画監督:岩崎たいすけ

f:id:karipan:20201229205349j:plain
f:id:karipan:20201229205706j:plain

最近の千代丸氏の楽曲は、英語フレーズの挿入などかなりモダンな仕上がりとなったものが多いですが、寧ろフィルム的なブラッシュアップが行われていた今作において、非常に世界観がマッチしている楽曲だったと思います。
断続的なカット転換で意味深な小道具を映す(バットとか)演出も最高にイカしていましたが、この絵コンテを描いたのが異種族レビュアーズの監督かと思うと、頭が混乱してどうにかなってしまいそう。

 

5.「アクダマドライブ」STEAL!!

歌:SPARK!!SOUND!!SHOW!!  絵コンテ・演出:田口智久 作画監督:Cindy H. Yamauchi

f:id:karipan:20201229210134j:plain
f:id:karipan:20201229210150j:plain

最大限に引き出された外連味、ネオン等の撮影処理にこだわりきったリッチでサイバーパンクな世界観が描き出されたオープニング。なにより注目したいのが、キャラクター毎の手の芝居付けの良さ。
最初にアクダマ達の手がカット転換で映されるのがたまらなく良くて、最早「手」だけでそれぞれ誰か分かるっていう。小松崎類さんのしっかり人物像を捉えたキャラクターの造形の良さ、そして「それ」を信頼しきった田口さんのコンテ。信頼関係がないと切れない絵コンテだよ、これ。凄い。ラストで一般人が手をひっくり返す芝居付けにも、本作の「簡単にひっくり返ってしまう構造」がよく表れてて最高なのよ。

 

6.「Re:ゼロから始める異世界生活 2nd Season前半クール」Realize

歌:鈴木このみ 絵コンテ・演出:小柳達也 総作画監督坂井久太 作画監督大田和寛

f:id:karipan:20201229210829j:plain
f:id:karipan:20201229210846j:plain

最早1クールの中で半分聞いたかも怪しい、大変貴重なOP。
とまあ冗談はさておき、1期放送当時もニコニコ動画などで「Redo」のアニメーションの逆再生が流行っていたり、MADの素材として多用されていたを思い出しますが、今回のOPも鈴木このみさんの力強い歌唱と、音ハメのフィット感が最高に心地よい。映像に文字を表示するところとか。
早速年明けから後半クールが始まるわけですが、何回OPが聞けることやら(切実)。

 

7.「デカダンス」Theater of Life

歌:鈴木このみ 作画監督:栗田新一

f:id:karipan:20201229211314j:plain
f:id:karipan:20201229211419j:plain

「噛めば噛むほど味が出る」OPとはまさにこれのこと。OPの重要な役割である「視聴意欲のスイッチング」をしっかりこなしつつ、作品の大まかな世界観の整理・説明、前回までの展開と照らし合わせた上での新しい発見が必ず見つかるようになっている構成。
歌詞・歌唱では「生の実感」を強調させつつ、映像にテクノ調をふんだんに醸し出すという対比が良い。

 

8.「BNA ビー・エヌ・エー」Ready to

歌:影森みちる(CV:諸星すみれ) 絵コンテ:吉成曜 演出:古川晟 作画監督:竹田直樹 2Dワークス:越阪部ワタル

f:id:karipan:20201229211748j:plain
f:id:karipan:20201229211805j:plain

恐らく越阪部ワタル*1さんと手腕と思われる記号的なデザインの数々がフィルムのモチーフ性を保ちつつ、手描きで躍動的なキャラクターの芝居がしっかりと拾われたアニメーション。
諸星さんの歌唱力もさることながら、影や独特の色彩センスがにじみ出る辺り、やはりTriggerらしさが感じられて、好きなOP。

 

9.「かくしごと」ちいさな日々

歌:flumpool 絵コンテ・演出:村野佑太 作画監督:山本周平

f:id:karipan:20201229212138j:plain
f:id:karipan:20201229212159j:plain

動きは少ないように見えるが、かなりフィルムの質感の転換が激しいオープニング。
本編中でも徹底して描かれていた過去パートと未来パートの分断。可久士や幼い姫はコミック調のタッチで描かれているが、成長した姫はシャープな線で輪郭が拾われており、背景美術もよりリアルに。
OP映像という短尺ではこれがひっきりなしに切り替わるものだから、時の流れからくる叙情の破壊力が凄まじい。「回想」が物語の軸となる、今作ならではの特色が存分に活かされた良OP。

 

10.「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」乙女のルートはひとつじゃない!

歌:angela 絵コンテ・演出:井上圭介 総作画監督大島美和 作画監督:澤入祐樹 大槻南雄

f:id:karipan:20201229212429j:plain
f:id:karipan:20201229212449j:plain

もう開幕のカタリナのゲス顔から笑ってしまうのですが、ここまで主人公の魅力をオープニング映像で表しきれる作品もそうそうないだろう。もちろんカタリナが持ち得ている圧倒的なキャラクターとしての求心力故にできだ芸当ではあるが、ついにやけてしまうようなカットの数々がとにかく見ていて楽しい。
ベートーヴェン交響曲第5番「運命」の有名な旋律「ダダダダーン」を彷彿とさせるパートの音ハメ、からの次々ページを捲っていくかのような軽快なカット運びで映される多彩なキャラクターたちの描写。作品の魅力を存分に詰め込んだ、面白おかしくも素晴らしいOP。

*1:デザイナー。アニメーションだと幾原邦彦監督作品への参加が多い

【アニメ映画】私の2020アニメ10選

ヨーテルさん(@youteru8457)のTwitterハッシュタグ企画に参加させていただきました。

ルール 

・対象:今年の作品(2019秋から継続含む)

・アニメ関連ならどんなジャンルの10選でも可

・順位はつけない

 今回自分は、「アニメ映画」の枠で選出しました。

目次

 

劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] Ⅲ. spring song

f:id:karipan:20201228165600j:plain

©TYPE-MOONufotable・FSNPC

原作未プレイの身としては、1章と2章を理解しきれず、かなり心にしこりを残したまま臨んだ鑑賞でしたが、はるかに予想を上回ってきました。
そもそもノベルゲームの尺を三本の映画に落とし込むという企画に対して最初はどこか不安もあったのですが、寧ろ今作は、息つく暇もないほど激しく波打つような作劇となっており、「情報の圧縮」がかえってフィルムの良さとして表れていたように感じました。リッチな撮影処理や圧倒的作画力で描かれる戦闘シーンの数々、何より「空の境界 俯瞰風景」にて燈子が示した「贖罪の在り方」のアンサーとして描かれる、桜並木へ歩みだす二人の背中。最大限の余韻を演出したラストに、強く心を打たれました。

 

ジョゼと虎と魚たち

f:id:karipan:20201228172932j:plain

©2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

本作はとにかく、「目線を合わせること」に関して、徹底していた。
視線の高低差からなる価値観・景色の違い。そういった意識的なアイレベル・芝居付けに記号的な演出意図は確かにあったものの、そういった演出だけでは表しきれない作品としての叙情が含まれていたことも確か。
リアル過ぎず、しかしフィルムというフィルターを介して、どこか勇気づけてくれるような台詞・芝居付け・描写の数々の塩梅が程よく、気づけば涙が溢れていました。過去作のブラッシュアップとしては、文句のつけようもない佳作でした。

 

羅小黒戦記

f:id:karipan:20201228174713p:plain

©Beijing HMCH Anime Co.,Ltd

カンフーアクションを思わせる戦闘シーンの芝居付けだったり、やはり中華的な描写も含まれてはいた。本的にも普遍的なテーマではあったのだが、フィルムの中に思想的意図は全く感じられず、寧ろ「ジャパニーズアニメーション」の感覚で楽しめたのが良かった。
勿論それは日本の誇るキャスト陣による熱演もあったとは思うのですが、特にラストでシャオヘイが未来を選択をする一連のシークエンスなんかは、余白を意識した叙情的な撮り方も、どこか馴染みのある描き方で安心できました。

 

劇場版SHIROBAKO

f:id:karipan:20201228180505j:plain

©2020 劇場版「SHIROBAKO」製作委員会

ミュージカル演出なんかは流石に笑ってしまったのだけど、追いつきたくても追いつけない、けれどずっと眼前に顕現し続けている七福神の描写といい、とにかくフィクションと現実(制作現場)の対比がくっきりした作品だなぁと。フィクションを作る作劇で、その境界を強調するという皮肉。
結局リアルにおいて劇的な変化は簡単に起こらないが、そんなことはお構いなしにページが捲られていく世界の中、奮闘するムサニの制作現場の七転八倒に、面白おかしさを感じたり感動したり、感情起伏のせわしなさが癖になる作品でした。

 

メイドインアビス 深き魂の黎明

f:id:karipan:20201228193329p:plain

©つくしあきひと竹書房メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会

際限のない下層へ「潜っていく」作劇の在り方として、高低差をとにかく強調したレイアウト・カメラワークの良さはTVシリーズの頃から釘付けだったわけですが、劇場の大スクリーンを介して鑑賞すると、これまた全く違う迫力で、とにかく冒頭から感心の連続でした。こだわりすぎて年齢制限の負荷まで突き破ってしまった様は、流石に苦笑してしまいましたが(笑)。
かくして下層へ潜るにつれて、よりディープになる個々の探求心。目的のために愛を創作するボンドルド、祝福として彼の体に体現されるプルシュカの「愛」のカタルシスが半端ない。理想ともいえる形で映像化してくださったスタッフの皆様には感謝の言葉もない。

 

魔女見習いをさがして

f:id:karipan:20201207170436j:plain

©東映東映アニメーション

今作は「おジャ魔女どれみ」未鑑賞で臨んだわけですが、そんな自分でも楽しめるのかといった不安は、冒頭からあっけなく払拭されました。
明らかに意識されたライティング(というより影)の演出は、自己実現の過程において登場人物たちの間にある等身大の悩みの象徴そのもの。魔法の否定を描いたのではなく、あくまでひとつの「フィクションとの向き合い方」を提示した作品だった。子供から大人へのイニシエーションとしてお酒の描写が多かった点もパンチ効いてたなぁ。

 

関連記事
karipan.hatenablog.com

 

クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダム

 

f:id:karipan:20201228195711j:plain

©臼井儀人双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2020


「オトナ帝国」の原恵一の呪い以降、「クレしん映画」と「クレヨンしんちゃん」はある種別個のコンテンツに近いと捉えていましたが、今作はくしくも「クレヨンしんちゃんらしさ」を残しつつ、従来のクレしん映画的なメッセージ性の込められていた作品だったように感じました。
特に好きだったのがぶりぶりざえもんとの別れのシーンなのですが、ここで不用意にしんちゃんに涙を流させなかったのは、やはり「ブタのヒヅメ」のリスペクトだろう。さすが京極監督、分かってらっしゃる。それはそれとして「宝石の国」2期、いつまでも待ってますよ監督。

 

どうにかなる日々

f:id:karipan:20201228201246j:plain

©志村貴子太田出版・「どうにかなる日々」製作委員会

百合、BL、おねショタ。オタク世俗的な表現を使えばおそらくこう形容されるであろう、一風変わった恋愛作劇。
しかしここで重要なのは、あくまでフィルムの中に生きるキャラクターたちは、彼らの主観では「あくまで普遍的な生活を送っている」、ということ。だからこそ街並みの雑踏のファーストカットで始まり、また結も喧噪で締める。また、余白を意識した青空のカットの多さ。意識して演出された弛緩的な雰囲気にとにかく没入できる作品でした。

 

BURN THE WITCH

f:id:karipan:20201228201545j:plain

©久保帯人集英社・「BURN THE WITCH」製作委員会

今年公開されたアニメーションの中で、「原作から忠実にアダプテーションされた作品は」と聞かれたら、自分は間違いなく今作と鬼滅の刃 無限列車編を挙げますが、好みの話として、こちらのほうが好きでした。
簡単に表と裏がひっくり返る世界、御伽噺の否定を軸に描かれる久保帯人ワールド、その圧倒的なワードセンス・レイアウトがそのままアニメーションとして動き回る様は痛快でした。原作漫画より先に鑑賞したのも、好感触の要因。

 

えんとつ町のプペル

f:id:karipan:20201228204242p:plain

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

視野を妨げているのは紛れもなく自分たち自身というマッチポンプな世界構造。そういった普遍的な本には然程目新しさを感じませんでしたが、今作の醍醐味はやはり、必死に上を見上げようと奮闘するルビッチ・プペルたちの心情とリンクするかのような、俯瞰・アオリカットの数々や奥行き、上下に振られる感覚がなんとも癖になる。
STUDIO 4℃さんの作品は、昨年の「海獣の子供」然りフィルムへの没入度にとにかく力を入れる印象でしたが、今作もキャラクター達と一緒に世界観を体感しているような感覚が良かった。再度鑑賞しに行くことはないとおもいますが、4DX上映等が始まれば行ってみたい気も。